最後には笑ってくれた、認知症の方の体験談

家族の看護
2016.07.26

認知症高齢者は、日に日に認知症の症状が悪化するにつれて元の姿とは全く違う雰囲気になってしまうこともあります。また、家族のことすら分らなくなってしまうこともあり、家族としてはどうすることもできない気持ちとなることもあります。
そのため、認知症の方の最期を家族が看取ることは少なく、介護者が看取ることが多くなります。

ここでは、最期に笑ってくれた認知症の方についての体験談をご紹介いたします。

最後には笑ってくれた、認知症の方の体験談

「一人にしないで」その言葉を受け入れた介護士

認知症高齢者の認知症が悪化するにつれて家族のみによる介護は難しくなります。また、認知症高齢者の多くは身体が元気であることが多く、徘徊・暴言・暴力といった行動に出る場合も多くあります。
そのため認知症が発症してしまうと、家族は認知症高齢者に合わせた生活をすることになります。

ようやく要介護3以上の介護区分が適用となったころには在宅介護が厳しくなっていて、特別養護老人ホームなどのような永住できる施設に入所します。
入所後は、どんどん認知症が進行し、家族は施設に足が向かなくなっていきます。家族と会う機会が減れば減るほど、家族のことが分からなくなってきてしまい、多くの場合で1週間に1度の面会が2週に1度、1ヵ月に1度とどんどん距離が離れていきます。

そのうち、認知症高齢者に身体的変化が現れ始め、自立歩行が困難となります。車椅子での生活、全面介助による排泄などの生活を経て、最終的には寝たきりの状態となります。この時点ですでに家族とのかかわりは希薄となってしまい、胃ろう造設を行うか行わないかと言う話し合いをするということで、やっと家族が施設に顔を出す…と言うことも多いです。
その後も認知症はますます進行し、家族のことを全く分らない状況となり、高齢者は話すことすらできない状況となります。

最期の看取り期に入ったある高齢者がいました。家族が来ないことを分っていないと思っていた担当の介護スタッフは、その高齢者の側に寄り添い話しかけたことがあります。
その時「一人にしないで」という言葉をその高齢者が介護士に言いました。介護士はびっくりしましたが、そのまま高齢者の側から離れず、手を取り顔を見ました。すると、認知症高齢者は、今までにない笑顔で「ありがとう」と笑ってくれました。

認知症だから何も分からない、といった考えのもとで認知症高齢者との関わり方をおろそかにしてしまうことが、介護の現場ではないとは言い切れません。しかし、認知症を患っているとしても一人の人間であり、心があります。介護士が側で見守り、心から高齢者と向き合うことで、互いの意思疎通を測ることができます。

認知症高齢者の介護は、時に辛く苦しく投げ出したくなる時もあり、暴言・暴力などに対し苛立ちを隠せない時もあります。しかし、互いにコミュニケーションをとり続けることで、気持ちが伝わり笑顔を取り戻すことができることを、理解することも大切です。